マジ嫌い愛してる、
マジ嫌いだった。めちゃくちゃクズ野郎だった。
超天才だった。才能の化け物だった。
子供のお絵描きみたいな形が形じゃないあれと
色もぐちゃぐちゃ、線も円も関係ない感じのあれ。
毎日が芸術じゃん。なんて思う奴に出会ったことはなかったから、脳みそに焼き付くまでに時間もそんなにかからなかった。
そしてそれは今でも焦げ穴になってぽっかりしっかり穴をやってる。
焼き切られたってより、撃ち抜かれたがきっと正しい。
でもそんな綺麗な丸じゃないから、多分ほんとはぶち抜かれた。
そいつは音楽にはちゃめちゃ愛されて音楽に喰い殺されてきたんだと思う。
まったく売れなかったみたいだし、その夢物語はそいつから世間一般の大人が持つ権利のある全てを根こそぎ奪っていた。
出会った頃は同じ言語で会話のできる珍しいやつって感じで、1週間もたたないうちにあたしの生活に日常としてちらつき出した。
あたしの初恋は尾崎豊で
もうどっか行ったって知った時は3日間ご飯が食べられなかった。
初めて浮気したのはTHE BLUEHEARTSの甲本ヒロト
たまたまストーカーした人が超好み。って感じで
不倫して泥沼の癒着したのは銀杏BOYZの峯田さんで
頭の中をぐちゃぐちゃにされて、完全にトリッキーだった。
現実世界のほんの端っこで勝手に作り出した彼らの幻想に手を伸ばし続けてただけなんだけど。
それしか救いがなかったんだから許して欲しい。
あたしにとってそれらの音楽はそれを生み出す彼らはもはや教祖であたしの理想の生きざまで心臓だった。
本気で恋してた。
どうすれば視界に入れるんだろうって
片っ端から表現に溺れていった。
当然、現実世界の男の子なんて男の子ってだけの生き物にしか見えなくて、カモフラージュの為のお人形さんだった。
彼女の肩書き、恋人の肩書き、
どうにかうまく現実に紛れ込んだけど、ずっと苦しかった。
当時、学生だったあたしは誰にも言えなくて、それがすごく独占欲を満たしてくれてた。
あたしは女の子に詳しい人が好きだったんだと思う。
そんな自分のどろどろしたメスの部分をここにきてさらけ出すことになるなんて、全く思ってなかった。
あたしにとって、初めて現実世界の男の子があたしの感情を根底から揺るがした瞬間だった。
音楽やってた、なんてよく聞く台詞。
初めてその歌声と弄ばれるギターの音色が耳を通って脳髄をぶっ刺した瞬間、
わけわかんないくらい泣けてきて
わけわかんないくらい興奮した。
これだ。あたしが求めてたもの。
この人だ。あたしが認められる場所。
その気配はあたしに幻の恋心を突きつけた。
うっとおしいだけのそいつの本当の姿にそれをまざまざと見せつけてくれるそいつの音楽にあたしはめちゃくちゃ恋をした。
毎日あたしの部屋には大音量でデモCDにもなれなかったそいつの残骸が鳴り響いていたし、
受話器の向こうのリアルな温度に目の前がチカチカしてごぼって雑に飲み込まれてた。
死ぬ思いで音楽を手放したそいつに
なんで?辞めるのやめたら?とか
今思えば容赦ない弾丸をうち散らかしていた。
だって、あたしが現実世界で初めて手にした唯一の弾丸だったんだもん。
そいつの音楽でくだらない世界をぶち抜いて生まれ変わりたかったんだもん。
なんて自分勝手な奴なんだ、あたし。
それでもその想いはものすごいエネルギーを秘めてたんだ。
言い訳くらいさせてくれ。
みんなが言うまともに生きるってそんだけ難しいんだよ。
今でもそいつの残骸を舐め尽くしてばれないように元に戻すことがやめられずにいる。
いつか絶対、爆発的に売れてくれ。
頼むから、世間に認知されてくれ。
とんでもなくぶっ飛べる合法のお薬になれると思うんだ。
絶対的にぶち抜かれた先でつるんとした自分になれると思うんだ。
きっと、生かすも殺すもあいつの音楽ならできる。
こんな生きづらさぶっ飛ばすし、寄り添うし、
それはほんとに、約束できる。
マジ嫌いって数えきれないくらいいった。
ほんと嫌いだったんだ。仕方ない。
あたしはなれることならあいつになりたかったよ。
本気で、
やっと認められた。
あの頃の無償の愛を今のあたしが食べ尽くすから、
もう、お眠り。